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新型コロナウイルスの感染拡大により世界が混乱に陥る今、ニュースでは世界中の医療体制が報じられている。ロシアの医療・保険体制はどのようなものなのだろうか?

他の先進国と比べて、ロシア国民の死因ランキングにおけるHIVやその他の感染症による死者数は未だに多い。この医療制度の現状を受け、国家は抜本的な対策を次々と打ち出し、国家プログラムで多くの予算も割いている。また、多くのスタートアップ企業がMedtech(メドテック)市場に現れてきている。今回は、現在急成長しているロシアのMedtechスタートアップについて紹介していきたい。

≪目次≫

1. ロシア医療制度の現状
 ⅰ.  ロシア国民の主な死因
 ⅱ.  医療へのアクセス・医療・保険制度の質などの課題
  ・医療制度
  ・保険制度

2. 国の対策

 ⅰ.   Health Net

 ⅱ.  日ロ間における医療協力

3. メドテックスタートアップによる取り組み
 ⅰ.   Third opinion
 ⅱ.  docdoc

 ⅲ. IQ-Beat

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ロシア医療制度の現状

ロシア国民の主な死因

平均寿命の短さや質の良くない医療・保険制度が今までロシアの医療制度の課題とされていたが、近年、これらの問題は少しずつ解消されてきている。

2012~2017年の間で平均寿命は2.5年延び、72.7歳まで伸長。乳幼児死亡率を35%、妊婦死亡率を23.5%削減した。

しかし、依然としてAIDSや感染症、結核などが原因で亡くなる国民は少なくなく、表1に示すように他の先進国と比較してもロシアの結核の羅患率は高いことが分かる。

国名 人口10万人あたり羅患率(人数)
ロシア(2018年) 54.0
日本(2018年) 12.3
中国(2017年) 55
米国(2017年) 2.7
英国(2017年) 7.9
オランダ(2017年) 4.6
ドイツ(2017年) 6.5
イタリア(2017年) 6.4
フランス(2017年) 7.4

WHO TB burden estimatesより転記

HIV感染者数に関しても、現在ロシア国内における感染者は推定100万人以上で、2018年、AIDSによる死者はおよそ37,000人にも達した(日本のHIV感染者・AIDS患者累積報告数は2018年末の時点で計30,149人)。

ロシア人のブロガーがHIV感染症への関心を高めるために製作した動画はこちらから(UNAIDSのサイトでも取り上げられている)。

ロシア国民の主な死因
医療制度

日本の医療制度は世界の中でも高い評価を得ていて、日本国民は高い質の医療サポートを比較的安価に受けることができる。では、ロシアで受ける医療サービスはどうだろうか?

経済産業省の調べによると、ロシアの医療機関別施設数、病床数はともに年々減少している。

また、1000人当たりの医師数は2000年以降、4.0人以上を保っており世界トップレベルにあるものの、医師の社会的ステータスは低い。

ソ連時代の国策で、医師と看護師を多く養成するため十分な教育を行わずに資格が与えられてたことが要因となり、知識や技術が乏しい医師・看護師が大量に生まれ、国民の医師に対する信頼感が十分にないことが原因と考えられている(ソ連崩壊後、教育制度改革が実施された)。

保険制度

ロシアでは全国民が強制医療保険への加入を義務付けられており、この保険により国民は一定の医療サービスを無料で受けることが出来る。年々無料サービスの範囲は拡大されている。

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国の対策

近年、ロシアにおける医療の発展が見受けられるものの、まだまだ改善する必要性があるように感じられる。国家は更なる改善を目指し、様々な医療制度改革に取り組んでいる。

Health Net

2014年に発足した国家プログラム“NTI”(National Technology Initiative)は、2035年までの政府としての重点市場と、それにかかる技術やインフラの発展をロードマップした取り組みである。重点市場ごとに予算が割り振られており、 “Food Net”や“Safe Net”と並び、“Health Net”も重点市場とされた。

政府は“Health Net”のロードマップで、2035年までの達成目標を以下とした。

『2035年までの達成目標』

  • “Health Net”のロシア企業が、医療製品の販売数で世界ランキングトップ70位内
  • “Health Net”市場の製品・サービスの断続的な提供を可能にする
  • “Health Net”市場の製品の需要が世界ランキングトップ20位内

また、上の目標を達成するため、段階別に到達目標を設定した。

第1段階(2017-2019年)

  • “Health Net”市場の零細企業の発展に必要とされるインフラの整備
  • スタートアップなどの新たなハイテク産業の発掘

第2段階(2020-2025年)

  • “Health Net”市場の中小企業の発展に必要なインフラの整備
  • “Health Net”の企業が海外マーケットに進出するための諸制度の整備

第3段階(2026-2035年)

  • 第1、第2段階で生まれたプロジェクトの始動、遂行
日ロ間における医療協力

ロシアは、国内の医療問題を改善するために独自のプロジェクトだけではなく、世界各国と様々な協力関係を築いている。日ロ間でも、地方単位から国家単位まで多様な医療協力関係が構築されている。

8項目の協力プラン

2016年、日露経済交流の促進に向けて安倍総理からプーチン大統領に提示された協力プランで、8項目の中に「医療水準を高め、ロシア国民の健康寿命の伸長に役立つ協力」を組み入れた。具体的な活動として、母子健康手帳の普及活動やロシアの製薬会社“R-ファーム”への参画などに着手した。

医療分野における交流は県や市区町村レベルでも行われており、兵庫県とハバロフスク地方は医療分野の交流を含む共同声明を締結した。また、ロシア国立予防医療科学研究センターの研究員らが愛知県の保健施設“あいち健康プラザ”を訪問した際には、日本の生活習慣病予防対策の制度に沿って保健指導を受けた。

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メドテックスタートアップによる取り組み

ロシアの医療制度改善に取り組んでいるのは政府や国立の研究所だけではなく、近年、ロシアのMedtechスタートアップも活発な動きを見せている。投資の観点からもMedtech分野は注目度が高く、投資は年々増加している。ここで、ロシア国内のMedtechスタートアップをいくつか紹介したい。

Third Opinion

胸部X線の画像を読みとり分析し、疾患の検出ができるAIを開発。医師による誤診の確立を下げ、患者に提供する医療の質の向上に寄与している。

また、患者が入院する病室をモニタリングし、患者の容態が悪化したと判断した場合はすぐにナースに連絡がいくAIモニタリングシステムも開発している。このシステムの導入により、ナースの勤務負担を減らすこともできる。

これらのシステムは、新型コロナウイルスの感染拡大により混乱している医療施設でも利用されているとのことだ。

docdoc

医師の診察の予約や、医師との医療相談をオンライン上ですることができるアプリを開発。アプリ上で、病気の早期発見・治療を目的として定期的に行う総合的な検査(日本で言う人間ドック検診)も予約することが出来る。

“docdoc”は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、24時間繋がるホットラインを開設した。医師に新型コロナウイルスに関する問い合わせができるだけでなく、医療従事者のストレスや不安を軽減するための相談用のホットラインも開設している。

verbo

脳卒中や頭部外傷などの後遺症で、失語症になってしまった患者のリハビリを支援するアプリを開発。失語症は専門的なリハビリが必要で、家庭のリハビリで効果を上げるのは難しいとされており、ロシア国内で専門家の不足が問題になっている。(ロシア国内では、毎年新たに25万人以上が失語症を患っている。)

“verbo”のアプリでは、言語聴覚士監修のリハビリサービスを利用できるため、家庭で専門的なリハビリをすることが出来るだけでなく患者の家族はアプリを通して専門家に悩みを相談することが出来る。

“verbo”は、高等経済学院(HSE Inc.)のインキュベーターやサムスンとパートナーシップを結んでいる。

IQ-Beat

心電図検査が容易にできる装置を開発。一般的には胸部に数か所シール状の電極を貼り、長時間(24時間)にわたる検査が行われている。“IQ-Beat”は導電性織物を利用したTシャツや枕、マットレスを開発し、それらの製品を使用、着用するだけで利用者は心電図検査を受けることができる。心電図計測のために、病院のベッドに24時間横たわる必要もなくなる。

 

発明したTシャツを危険な仕事に務める人々に着てもらい、リアルタイムで体内データを計測することで事故を未然に防ぐ目的で開発された。


ロシアの医療体制はまだまだ他の先進国に比べて劣るかもしれないが、この様に、国家を挙げた取り組みで多くの民間企業やスタートアップ企業が医療の発達に貢献している。

メドテック分野は専門的な分野であることから進出が難しいとされているが、多くのスタートアップが医師や医療機関などの協力を得ながら研究、開発に取り組んでいる。今後も更なる発展に期待が膨らむ分野だ。

(執筆:上江田 菜緒)

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