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今まさに変化・急成長しつつあるロシアのインターネット広告市場は、最も注目すべき市場のひとつであると言えるでしょう。

今回は、ロシアのインターネット広告・アドテク市場(アドテクとは、アドテクノロジー、広告技術のことであり、テクノロジーを応用したネット広告や配信技術を指します)について、基本的な情報から最新アドテク系スタートアップに至るまでを広く解説していきたいと思います。

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⑴急成長したロシアのネット広告市場

①ロシアのインターネット広告市場、印中英を抜いて最大の成長率

ロシアのインターネット広告市場は、世界的に見ても、近年急速に発展したということが分かります。2018年6月に電通が発表した世界の広告費予測では、ロシア市場の成長率は前年比14%増であり、調査対象の主要国の中では、最も高い成長率となりました。(インド:+8.9%、中国:+6.3%、英国:+4.2%)。

また、昨年、電通が海外本社を通じて、ロシアの大手メディアエージェンシー「アー

ロンロイド社」の株式100%を取得したことが話題となりました。アーロンロイド社は、ロシアにおける医薬品専門の広告代理店で、医薬品・ヘルスケアの広告に関する専門家57名を抱え、数多くの顧客企業に対して総合的なメディアサービスを提供しています。

②2018年ついにインターネット広告の市場規模がテレビ広告を上回る

今年の3月11日に、ロシアの広告・マーケティング業界における最大規模のNPO法人であるロシアコミュニケーションエージェンシー協会が発表した、2018年におけるロシアの広告規模調査の結果によると、2018年のロシアの広告市場全体は4,687億ルーブル(約7,968億円)で、12%成長しました。ここで注目すべきは、インターネット広告市場は22%成長して2030億ルーブルとなり、ロシアで初めてテレビ広告市場(1797億ルーブル)を上回ったことです。

インターネット広告が最大の広告媒体となったとはいえ、テレビ広告がロシアの主要な広告媒体であることには変わりなく、広告媒体市場第二位の地位を保持していますが、成長率は9%にとどまりました。また、オンライン映画分野の広告は21%、音楽サービスは2倍に成長しています。

さらに、インターネット広告の成長にともなって、その他のインターネットサービス市場も大幅に成長しつつあると言えます。ロシア最大のポータルサイトであるヤンデックスは22%、無料の電子メールサービスを提供するMail.Ruグループは38.6%も成長しました。

③急激な成長、今後は落ち着きの傾向か?

次に、 IAB Russia*とPwC*が2018年第4四半期に発表した2017年~2020年インターネット広告市場の分析結果を見てみましょう。

この調査では、直近3年のインターネット広告市場成長率には減衰がみられるものの、段階的に市場は拡大し続けると見込んでいます。

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将来的にインターネット広告市場の成長スピードに減速が予想される要因として、現在(2018年から2019年にかけて)がこの市場の過渡期であることがあげられています。新たなインターフェイス(インターネット広告市場を加速させる新たなメディアやオンラインサービス)が数多く現れ、既存の広告媒体にとって代わり急速に普及しつつあるのが、今日であると言うことができます。それ故、今後インターネット広告市場は円熟期に入り、その一方でインターネット広告を助ける新技術(精密なターゲティングなど)が次々と現れ始めると考えるのが妥当なのではないでしょうか。

* IAB Russia:The Interactive Advertising Bureau (IAB) Russia

* PwCPricewaterhouseCoopers

⑵インターネット広告の種類と種類別分析

①インターネット広告の種類と特色

ここでは、 IAB RussiaとPwCによる調査で言及されている広告の分類に基づいて説明していきたいと思います。

以下の4種類のウェブ広告がロシアで主流となっています。

リスティング広告検索連動型広告)とは、YandexGoogleなどの検索エンジンで検索する際に、検索結果の上部に表示される広告です。

②種類別成長率

では、実際に2018年から2020年のウェブ広告の種類別成長率を見ていきましょう。

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Performance CPx(ソーシャルネットワーク上のターゲット広告)は、現在最も急速に成長している広告形態であることがわかります。しかしその後は、インターネット広告市場の円熟に伴ってその成長率は低下してゆくことが予想されます。Performance CPxが急成長した要因として、ターゲットのアクション分析機能が発達し、精密なターゲティング技術が積極的に取り入れられるようになったことがあげられます。

Branding video(動画広告)は、常に高い成長率を保っていますが、その成長の理由は、新世代とも言われるインターネットを使用する1998年以降に生まれた若い世代の出現によって説明することができます。

Branding広告は伝統的な広告であるものの、以前はバナー広告の方が主流であり、若い世代がインターネットに参入するのにともなって動画広告の割合が増加し始めました。彼らは今後も増加し、既存のインターネット世代を圧倒してゆくことが予想されます。彼らにとって、動画広告は最もなじみのある広告であると言えます。

動画広告とは対照的に、バナー広告は今後ウェブ広告の主流からは外れてゆくことになるでしょう。スマートフォンなどのモバイルデバイスの普及によって、デスクトップでのインターネットの使用率が落ち込みつつあるからです。

⑶インターネット広告急成長の理由

①インターネット普及率の伸び

インターネット普及率の伸びがインターネット広告市場拡大の要因であることは言うまでもありません。*GfKが公開しているデータによれば、2018年上半期にロシアにおけるインターネット普及率は70,4%から72,8%に成長、スマートフォンなどのモバイルデバイスを介したインターネットの使用率は 47,0%から56,0%に成長しました。

そして、インターネット使用率の拡大は、スマートフォンの普及および年配者のインターネット使用の増加と大きく関係しています。GfKの同データによると、55歳以上のインターネット使用率は2017年中に4分の1増加、モバイルデバイスの使用率は2倍になりました。かつてはインターネットの使用になじみのなかった年配の世代が、スマートフォンを用いてオンラインコンテンツを楽しんだり、インターネットショッピングを行ったりすることは今や珍しいことではありません。

*GfK:ドイツに本社を置くマーケティングリサーチ企業

②テレビ広告との競争

インターネット広告市場が急成長した背景に、テレビ広告との激しい市場競争があります。昔から存在しているテレビ広告は、ウェブ広告と比較してはるかに広範囲にロシア経済に依存しているということができます。そして、インターネット広告市場がモスクワやサンクトペテルブルグのような大都市に拠っているのに対し、テレビ広告市場はロシア全土で広く発展してきました。広大な領土を有し、都市間格差も大きいロシアにおいて、2018年にインターネット広告市場が広告媒体で首位となったことは、驚くべきことであり、インターネット広告市場の努力が伺い知れます。

ソーシャルネットワークが果たす大きな役割

今日、ソーシャルネットワーク上の広告の重要性が増加しつつあると言うことができます。PwC Media Outlookの調査結果によれば、ロシアでは一日当たり1億人がソーシャルネットワークにアクセスしており、そのうちの70%がモバイルデバイスを介しています。したがって、業界はソーシャルネットワークをテレビのような従来メディアと同様の影響力を持った1メディアであるとみなし始めています。

ソーシャルネットワーク「VK」上のネット広告

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「VK」とは、「VKontakte」の略であり、ロシアおよび旧ソ連国で広く浸透している「ロシア版フェイスブック」とも称されるSNSです。VK上のインターネット広告は、種類が非常に多く、ターゲティングの精度が高いのに加え、ローコストに抑えることができるという点で優れています。

コストに関しては、VKでは CPC(クリック単価、ユーザーがクリックしたときのみ広告主に課金される仕組み。)のみを採用しているため、シンプルかつ低価格を実現することができています。

①広告の種類

タイムライン上で他の一般の投稿と並んで表示される広告には、以下の種類があります。

・カルーセル広告(1つの広告枠に対して、複数の画像や動画を掲載することができる広告)

・写真広告

・リード獲得広告(サイトに移動することなく、SNS上で登録フォームなどの入力が可能な広告)

・ボタン広告

・サイト広告

・ダイナミック広告(閲覧履歴のトラッキングにより、ユーザーの興味により近い広告を表示する広告システム)

・ストーリー広告(VKの「ストーリー」投稿と並んで表示される広告)

広告のバリエーションはフェイスブックとほぼ同じです。ボタン広告は、広告内容に基づいたアクションを実行するボタンがつけられた広告であり、VKホームページによれば、より効果を生むために動画広告の形態にすることが推奨されています。現在VK上の広告の25%以上が動画広告を採用しており、広告主は何パーセントの視聴者が動画を最後まで見たかをデータとして確認することができます。

VKの広告の中でユニークなのは、タイムラインに表示される広告以外に、「テキストグラフィックブロック(TGB)」という、画像と非常に短いテキストで構成されたブロック型の小さな広告があることです。アプリケーションのインストールを促進する広告がよくこの形態をとっています。

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テキストグラフィックブロック(TGB)

②ターゲティングの種類

VKにおいて採用されているターゲティングは以下です。

・地域別ターゲティング

・人口統計によるターゲティング

・誕生日によるターゲティング

・趣味や関心によるターゲティング

・所属グループによるターゲティング

・リターゲティング

・類似オーディエンス

バリエーションでみれば、こちらもフェイスブックで採用されているターゲティングと大きな差異はありませんが、ユニークな点が2つみられます。

1つ目は、「誕生日によるターゲティング」。これは、広告主が指定した期日(7日以内など)に誕生日を迎えるターゲットおよび、その友達に広告を表示するというもの。広告主は、ギフトに関する広告や、誕生日割引の提案などを行うことができます。

2つ目は、「所属グループによるターゲティング」。これは、「趣味や関心によるターゲティング」とは別でカテゴライズされています。VKでは、自分の趣味や関心に基づいたグループや、参加予定のイベントのグループに所属することができます。そのグループに基づいてその分野の広告を表示するのです。これはつまり、ターゲットが今まさにグループに所属して積極的に情報を取り入れている分野の広告をピンポイントで提供できるということです。

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「趣味や関心によるターゲティング」は、ターゲットの足跡(過去にいいねしたコンテンツ、クリックした広告)に基づきますが、アクティブ性という点では現在所属しているグループに拠った広告の方が優れており、効果的であると言えます。なぜなら、過去のいいねやクリックは一回きりの動作であり、現在の関心と合致していない場合が多くあるからです。また、職業などのパーソナルデータに基づいて広告が表示される場合(人口統計によるターゲティング)と比較しても、このターゲティングが効果的であることは明らかです。たとえアクティブユーザであったとしても、自身のパーソナルデータを表記していなかったり、更新していなかったりすることがよく見られるからです。

⑸これからの広告業界の展望~クロスメディア

PwCとIAB Russiaは、これからロシア広告業界がさらに発展してゆくためには「クロスメディア」の発達が不可欠であるとしています。

クロスメディア」という用語の定義は広くとらえられていますが、一言で「オンラインとオフラインの融合」と言うことができます。例えば、地下鉄の駅構内に貼ってある広告に印刷されているQRコードから製品のサイトにジャンプすることができますが、これもクロスメディアの一種です。

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現在ロシアでは、オンラインスペースとオフラインスペースの境界は消えつつあります。市内中に張り巡らされたWi-Fiネットワークからデータを収集してインフラ整備に活用したり、オフライン時の消費者行動をターゲティングし、単一のプラットフォームに統合したりなど、オンラインとオフラインを融合することによってより効果的な都市運営を実現することができます。ロシアでも盛んに取り組まれている「スマートシティプロジェクト」をその一例として挙げることができます。

ロシアのスマートシティプロジェクトに関する過去の記事はこちら➡

russiabuzz.hatenablog.com

単一プラットフォームへの情報の統合に関しては、ロシアの大手通信会社ヤンデックスが提供するサービスのひとつである「Yandex. direct」が大きな役割を果たすと考えられます。「Yandex. direct」は、コンテクストターゲティング広告とディスプレイ広告のための統一プラットフォームであり、効率的なマーケティングを実現することができます。

ヤンデックスが提唱する広告の効果構造によると、まず消費者にブランドを認知してもらうためにはディスプレイ広告商品の購買意欲を高めるためにはコンテクストターゲティング広告リピーターを呼び込むためにはバナー広告やリターゲティングが最も効果を生むと考えられています。したがって、例えば、すでにディスプレイ広告の目にしたことのある消費者に対してはコンテクストターゲティングを表示、サイトでの購入履歴のある消費者に対してはバナー広告を表示すれば、より効率よく消費者を購買に導くすることができるのです。

⑹インターネット広告分野のスタートアップ

では、最後にアドテク関連のスタートアップをご紹介します。

①AdWired

スマートテレビやデスクトップ広告のサービスのほか、モバイルデバイス上のリッチメディア広告を開発しているスタートアップ。

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https://www.adwired.net/ru/

あらゆるプラットフォームに対応した、モバイルアプリケーション上のインタラクティブ広告を提供しているほか、ビッグデータを用いたユーザープロファイルの作成・管理や、アプリユーザーの動向分析を行っています。

また、大手通信会社メガフォンとの合弁事業として、通信網を駆使したジオターゲティングを実現させました。

企業の活動領域外における企業広告サービスも行っています。(ロシア、ウクライナベラルーシ南アフリカカザフスタンベトナム)

②First Date

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https://firstdata.io/ru

First Dateは、「オフラインでの購入に基づいたオンライン広告」のためのターゲティングプラットフォームの開発を行っています。つまり、実際の消費者のスーパーマーケットなどでの買い物データを収集し、顧客管理システムに保存、それを元にインターネット上でオンライン広告を表示する、という仕組みです。

CPM(インプレッション単価) 、 CPC(クリック単価)、CPA(コンバージョン1件当たりの広告費用)などの既存の広告モデルの中から、最も適したモデルをクライアント自身が選択することができます。オンライン広告の表示は、Google、VK、ヤンデックス、mail.ru、Facebookなど、広範囲にわたるインターネット領域において可能です。

③Social Mart

消費者にとって煩わしい「広告」を「有益な情報」に変えるサービスを開発したスタートアップ。消費者のより快適なインターネットショッピングをサポートします。

表示される広告が自身の興味とは合致しないものであることは頻繁に起こり得ますが、ターゲットのアクションをより詳細に分析することによって、実際に今ターゲットが求めている情報を的確に表示することができます。例えば、たった今ターゲットが閲覧しているサイトのテキストを解析し、その情報に直接関連した商品の広告を表示します。

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https://socialmart.ru/wl-catalog

⑺まとめ

2017年ごろから現在までの時期に、ロシアのインターネット広告市場は大きな変貌を遂げました。新たなインターフェイスが次々と現れ、ウェブ広告の性質自体が大きく変わったことに加え、市場規模自体が伝統的なテレビ広告をしのぐほどに急速に拡大しました。

そして、これからロシアのインターネット広告市場は新たな段階に入っていくのではないでしょうか。ある程度成熟した土壌において、より優れた新たなテクノロジーが生まれることが予想されるほか、オンラインとオフラインの境界があいまいになってゆく中で既存の広告技術とテクノロジーの融合が不可欠となることが考えられます。

これからのロシアのインターネット広告市場は、単一の市場で見るのではなく、社会の中ITインフラの一部として大局的にとらえることが必要とされているのかもしれませんね。

(執筆・編集・リサーチ:田中 真奈美 / リサーチ:イリーナ スクドノーヴァ)

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